ホウ素中性子捕捉療法 (Boron Neutron Capture Therapy:BNCT) とは、核反応を利用して、腫瘍細胞を内部から破壊し、死滅させるという治療法です。あらかじめターゲットとなる腫瘍細胞に10B (ホウ素) を取り込ませておき、体外からエネルギーの低い中性子線を照射します。するとホウ素は、細胞膜や核内のDNAを破壊する作用を有する4He (ヘリウム原子核) と7Li (リチウム原子核) に開裂します (図1)。これら2種類の原子核の飛ぶ距離、すなわち殺傷能力を保持する距離は、それぞれ9µm, 4µmと細胞の1個の直径とほぼ同等もしくは短いため、ホウ素を取り込んでいる細胞のみが死滅します。したがって、周囲の正常細胞は傷害されにくく、従来の放射線治療とは違った特徴、利点を有しています (図2)。
BNCTを行うためには、より多くのホウ素を効率よく腫瘍細胞に取り込ませることが必須であり、その含ホウ素化合物としてボロノフェニルアラニン (BPA) が考案されました。本化合物は、必須アミノ酸のフェニルアラニンにホウ素を付加した構造をとっており、アミノ酸代謝が亢進する腫瘍細胞に取り込まれる仕組みになっています。BPAの取り込み量は腫瘍細胞によって異なるため、BNCT実施の前には腫瘍細胞に取り込まれるホウ素量の予測が必要となります。そこで、BPAを18Fで標識した薬剤[18F]FBPAを用いたPET検査を行い、これを予測します。本検査でホウ素の腫瘍/正常組織比、および腫瘍/血液比が一定の基準を満たし、BPAを良く取り込む腫瘍であると診断された場合には、BNCT対象者となります (図3)。
「ホウ素中性子捕捉療法 (BNCT) の実用化促進」事業は、「関西イノベーション国際戦略総合特区」の中の1項目として位置づけられ推進されています。HIMCは、[18F]FBPA-PET検査を行うことで、BNCTの実用化・普及に向けたネットワークの一端を担います (図4)。BNCTプロジェクトの概要につきましては、大阪府のホームページ (http://www.pref.osaka.lg.jp/kikaku/bnct/) をご覧ください。